「テストでいい点を取るよりも誰かを幸せにできることをした方が、ずっと価値がある」―「異才」と評される彼の人生哲学

三重県立伊勢高校から推薦入試で工学部(理1)に合格、現在は工学部機械工学科に進学している矢口太一さん。「『高い志』と『異能』を持った若者」を対象とした「孫正義育英財団」の財団生でもある。そんな彼の人生哲学を聞いてきた。
――矢口くんは小学生の頃から今までずっと、セミをテーマに研究されているとのことですが、研究を始めたきっかけを教えてください。
『小学五年の時、友達とセミの抜け殻を集めていて、夏休みの自由研究のテーマにしてみたんです。そうしたら地域の賞をとって嬉しくなって次の年もやってみました。小六で「セミの飛翔」をテーマとした時、セミの羽と体重の関係をグラフにしたら、物理みたいなまっすぐなグラフが描けて。それが面白くってワクワクしました。それからずっと続けています。』

――高校生の時に日本学生科学賞で内閣総理大臣賞を受賞したり、国際学生科学技術フェアに日本代表として出場したりと、すごく活躍されていますよね。私も同じく三重県出身なのですが、田舎の高校生がそんな活躍するのってすごいなっていう印象を受けました。どのように取り組んできたんですか?
『父の存在が大きかったですね。父には学歴があったわけではないのですが、国体に10年連続で出た元スポーツ選手で、そのご縁で運動生理学の研究を少ししていたので、色々研究の方法論を教えてくれました。』

――なるほど。ところで、矢口くんは研究で大きな業績をあげているけど、それだけでなく様々な分野に見識を広めようとしているところがすごいと思っています。
『昔から、すごく本や新聞を読んでいます。それから、子どものときから歴史が大好きで歴史オタクと言われるほど。戦国武将から始まっていろいろ興味を持って。歴史上の偉人がかっこいい!人間が生きるドラマには心が惹かれます。つい最近も読み直すために、日本の歴史漫画を買いました(笑)』
――へえ〜!知らなかった(笑)。東大を受けることを意識したのはいつ頃ですか?
『小学生の時に卒業文集に書いていました。日本一の大学に行きたかったんですかね!(笑)』
――推薦入試で受験するということはいつ決めましたか?
『推薦は、中学生の時に聞いていて、研究がうまくいったらこれで行こうと思っていました。世界大会で知り合った友人たちが進学していたMITとかも考えたのですが、世界大会で賞が取れなかったこと、経済的なこと、英語が苦手だったことなどもあり、東大で四年頑張ろうと思いました。東大への憧れもありましたから。』
――東大に入ってみて、どうですか?
『やっぱりみんな勉強できるなと思うと同時に、一方でみんな普通の人間やなとも思いました。東大生に限らず、日本人は平和ボケをしていると思います。自分が良ければいいという思考というか…。明日食べる物にも困る人もいるのに。この前聞いた話で面白かったのは、今すごく急激に人口が増えている。これが普通の生き物の集団だったら、増えすぎて100パーセント絶滅するらしいです。だけど、僕たちは日々の生活に満足して危機感がない。一方で、日本では人口が減っている。これまでの、人口が増えて経済が成長するという前提が崩れている、いわば「時代の転換期」を生きられることにある意味でワクワクしています!』
――視野が広くてすごいなあ…。最近はどのような活動をしているのですか?
『今は学業が中心です。セミの研究については、現在は東京大学の研究室で自身の研究を進めています。今年度中にジャーナルに投稿できるように頑張っています!将来は事業を起こすことが目標なので、経営者の方から勉強させてもらったり、そちらの方面にも多くの時間を割いています。』
――ビジネスに目を向けているのはどうしてですか?
『最近自分の価値観として固まってきたことなんですが、つまらないことをやっているほど人生は長くない。自分が心からワクワクすることをやりたい。それから、自分がやることで一人でも多くの人を幸せにしたい。だから、ビジネスをすることにしました。東大生ってちやほやされるけど、勉強できても誰も幸せにしてない。僕も教養は好きだけど、それは趣味でしかない。
テストでいい点を取るよりも、誰かを幸せにできることをした方が、ずっと価値があると思います。自分が勉強できてだれかを幸せにできたか?そう考えたときに、ビジネスをしたいなと思いました。僕たち、とくに東大生が恵まれているのも、社会という共同体があるから。だから、全体が良くなることをしなきゃいけないと思っています。ビジネスは、サービス提供、雇用といった様々な形で多くの人を幸せにできる。自分が偉くなりたいというわけじゃありません。』
確かに、自分も楽しく、かつ人の幸せに貢献していけたらとても幸せですよね。最後に、東大受験生に一言お願いします!
『受験勉強が役に立たないと思うならやめたほうがいい。役に立たないことをやるほど人生長くない。僕にとっては、受験勉強は役に立ったと思います。数学や理科はもちろん、古典も精神的な支えになっているし、社会も大好き、英語が使えると世界は広がるし!僕は苦手だけど(笑)とにかく言いたいのは、「本当に楽しいことってなんだ?自分にとって、世の中にとって大切なものってなんだ?」というのを考え続けて欲しいということです。青春三年間を無駄だと思うことに費やしても幸せじゃないと思います。これは僕の価値観だし、押し付けるつもりはありませんが、とにかく僕はそう思っています。やりたくないことをやっている人より、「これが本当に楽しいんだ」ってニコニコしている人の方がかっこいいでしょ?』
おわりに
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執筆:内山幸奈
編集:三浦康太郎